医療関係従事者の方へ
研究会専任講師 医学博士 小田博久先生にドライニードルの基礎について動画で専門的にお話していただきます。
ドライニードル(以下DN)は、治療理論ではなく刺鍼テクニックです。
鍼を自分の身体に打たれ慣れている鍼灸師でも 、実際にDNを体験されると他の鍼との違いがわかると思います。
例えば、
「 他の鍼と違い、フワッ~…とゆるむ感覚 」
「 刺鍼された部位がポカポカする温感 」
「 短時間で筋肉がゆるむことを体験 」
「 単収縮の体験… 」 etc.
独学だけでは、DNテクニック習得には限界があるかと思います。
鍼灸師・医師の先生方は、まず初めに、手ほどきを受けてから臨床に使われることをお勧めします。
ドライニードル臨床研究会代表 松森裕司
講義1:DNが目標(刺鍼)とする筋肉部位の性質
圧痛とは何か?
(補足説明)
通常の圧痛点療法は、圧痛のある皮膚上の部位から鍼を皮膚に対して直角に刺入します。
その解剖学的な刺入深さはそれほど考慮されません。むしろ脈診の状態などにより刺入深さを決定する場合が多いです。
DNの場合は、指で押して患者に圧痛が生じる方向に刺入します。
上向きに押さえて圧痛が生じるときは、鍼刺入の方向もその皮膚部位から上向きになります。
深さは、それまでの刺入に対する抵抗に比べて、刺入抵抗が大きい部位を鍼で圧迫するか貫きます。
さらに、筋繊維を切断する方向(筋繊維に対して直角)に刺鍼転向法を行い筋硬結部位を対象にします。
一般的な刺法では、押し手を軽く置きますが、DNでは特に押し手を強く体に押し付けます。
部位によっては目標とする筋肉を拇指と示指で刺入方向に強く引き寄せます。二次元(平面)的な皮膚上の位置ではなく、三次元(立体)的に筋肉を刺鍼目標部位にしています。
なぜ圧痛部位は感受性が高いのか?
(補足説明)
圧痛の引き金となるのは虚血状態になることであると考えられます。
その後、一部のアクチンとミオシンの間の動きがおかしくなったり、筋全体の緊張が高まった状態が続くということにより圧痛が構成されるようです。
圧痛点は、刺激に対する感受性が高い部位です。
刺激とは変化です。
機械的圧迫による刺激や電気による刺激に感受性が高い(刺激閾値が低い)部位が圧痛点です。
皮膚には鋭い痛み感覚が存在しますが、支持組織や筋肉には鋭い痛み感覚はありません。
圧痛部位には発痛物質が正常部位より多く存在していると考えられます。
鍼を刺入して置鍼すると、その置鍼に関してはそれほど刺激になりませんが、徐々に刺入(圧入)する過程が刺激になり、軸索反射による鍼周囲の血流改善が期待できます。
刺入を持続する(置鍼)と圧迫や鍼の金属のイオン化傾向に基づく反応や異物による組織損傷は時間とともに大きくなります (佐藤 暢, 松尾 知子, 岡崎 直人, 山崎 郁雄 1978)。置鍼は鍼の太さによりますが、DNとしては、臨床的経験に従えば2分で十分であるとされています (Association 2013)。
筋の攣縮・緊張の違いは?
(補足説明)
攣縮(れんしゅく)の、一般的な定義は「断続的に生じる程度持続性の筋収縮状態」であり、単収縮と同義語としても使用されています。冠状動脈の攣縮なども一般的です。
DNでは、異常な筋収縮状態の表現として使用しています。
筋肉痛は、筋血流の低下に由来して疼痛が発生し、そのためさらにその部位の筋攣縮が生じるという悪循環を呈しやすい筋肉の異常緊張で、しばしば筋筋膜性疼痛の際の筋緊張の意味で用いられています。
筋の緊張は、α運動神経とγ運動神経の支配下にあります。
筋肉を構成している筋線維(錘外筋線維)は太いα運動線維の支配を受けています。
筋繊維の長さ情報は、Ia 繊維で中枢に送られます。
長さがせいぜい10㎜以下で、6~8㎜程度の長さを有する筋紡錘の中にある錘内筋線維は、細いγ運動繊維の支配を受けています。
錘内筋からの長さ情報は Ibで中枢に送られます。
α運動ニューロンのみが筋肉に信号を送って筋線維が収縮すると、筋繊維に平行して存在している筋紡錘が弛緩するので、そこからの長さ情報であるIb求心性の信号は減少します。
α運動神経と同時に γ運動神経が筋紡錘内の錘内筋に信号を送ると、 錘内筋が収縮して筋紡錘を緊張させるので、筋の長さの変化情報が明確にわかります。
γ運動神経は伸長受容器の感度調節を行っていることになります(α-γ連関)。
γ運動神経からの刺激のみがあると筋紡錘が緊張するので、Ia線維を介する神経信号によってα運動ニューロンを興奮させ、筋収縮がおこります。このような系をγ環(γloop)と称されています。
このようなメカニズムがあるので、γ運動神経の興奮が、たとえば交感神経の興奮により影響されると長さの検知器官の精度にズレが発生します(γバイアス)。筋の緊張には筋肉に来ている交感神経の興奮度も関与しています。
筋肉の張力を検出するのは腱紡錘です。 腱器官からの中枢への情報を伝えるのはIb線維です。
腱紡錘のIbは、Ⅰa線維に比べ閾値が高く反応まで時間を要しますが、刺激が取り除かれた後も長く興奮が続くという特徴があります。 筋の緊張と攣縮の明確な区別はありません。
しかし、臨床上筋の緊張と称する場合は、自発的な筋の収縮ではないということ、緊張がある筋肉を自発的に伸長させても攣縮している筋よりも痛みが発生しないこと、同様に圧痛も攣縮の場合よりも軽いことが上げられます。
腰痛などで、深部筋が攣縮を起こしている場合、無理に体位を変えて筋肉を伸長させようとすると痛みが発生します。
講義2:DNに電気を使用する理由
筋肉の攣縮(れんしゅく)には、陰極矩形波通電を施します
(補足説明)
DNの効果の一つに単収縮があります。
機械的な鍼操作だけでこの単収縮が起こり難い場合、あるいは正確な部位に鍼を刺入できない場合、陰極矩形波通電することにより、多少場所がずれていても強制的に筋収縮を引き起こせます。
鍼に微弱な矩形波電流を流しながら雀啄(じゃくたく)をすると、筋肉内部の感受性の高い攣縮部位では筋収縮しやすくなります。
このように電気を使用したDNが小田式の最大の特徴となります。
一連の陰極矩形波刺激には、伊藤超短波社製のIC1170が適しています。
通電しなくてもDNは強力な施術方法ですが、電気的に筋を収縮を起こさせるとより短時間に効果を高めることができます。
悪い筋肉に矩形波電流刺激を与えた時にのみ筋収縮が起こります
(補足説明)
悪い筋肉(攣縮・圧痛のある筋肉)に矩形波電気刺激をすると筋収縮が起こります。
悪くない筋肉では、筋収縮が起こりません。
このことから感受性が高い筋肉(圧痛のある筋肉)は電気刺激に敏感に反応するために、鍼先が悪い筋肉に当たったという判断にもなります。
低周波置鍼通電刺激とDNの通電による筋収縮の違い
DNの基本的な筋収縮は、鍼による機械的な刺激に基づく自発的な単収縮です。
低周波置鍼通電刺激は、経皮的な電極もありますが、鍼電極を使用する場合は症状から帰納して理論的に部位を決める場合と圧痛点に刺入する二通りの方法があります。
圧痛点に確実に刺入すれば、その方法はDNに陰極矩形波を通電する条件とそれほど大きな差はありません。
しかし、通常の低周波治療器は波形が陽極と陰極に極性が入れ替わる交流になっています。
陽極になると鍼の金属が溶出する可能性があります。
また、好ましい陰極通電ではありません。
さらにまた、低周波置鍼療法では、脳内エンドルフィンを期待するので20分間程度継続した刺激を行います。
刺激強度は、侵害刺激としてできるだけ強くすることが望ましいとされており、局所効果と全身の疼痛閾値の上昇を意図しています。
さらにまた局所の鎮痛を意図しているとされる場合に置いても、比較的刺激時間が長く、長く続く筋収縮の繰り返しによって酸素その他の供給が満足にできなくなる可能性があります。
DNに陰極矩形波を通電する方法は、数秒から30秒程度の筋収縮を行うことにより、局所の筋弛緩と血流改善を意図します。
このため確実に筋の圧痛部位に鍼を刺入して、筋収縮を目的として比較的弱い電気刺激を行います。
一般の低周波通電置鍼法と比べて、DNへの陰極矩形波通電は、圧痛部位に極性のある弱い電気を筋収縮を目的として短時間行うという特色があります。
当研究会推奨機器
セイリン株式会社 picorina [鍼電極低周波治療器] 伊藤超短波株式会社 製作
IC-1107を研究会推奨機器としていましたが、残念ながらメーカーが製造終了となりましたので、代わりに伊藤超短波株式会社製作 セイリン株式会社販売 picorina [鍼電極低周波治療器] を研究会としてお勧めいたします。